many north, and south.

ソール・ライター展

ソール・ライターの処女写真集『Early Color』を手がけたのは、世界一美しい本を作るといわれるドイツのシュタイデル社。シュタイデルに対する信用はそのまま、当時83歳になっていたライターへの信用となった。

ライターの前半生のキャリアは華々しいものだった。しかし彼は無名であることを望み、成功した商業カメラマンとしての地位を捨てた。90年代後半から助手が彼の作品を写真集として世に出そうとしたがうまくいかなかった。彼のプリントを扱うニューヨークのギャラリーで、シュタイデル本人に“再発見”されるまでは。

自身の骨董収集を下敷きに美と美術を論じた『真贋』で、小林秀雄は書いている。美は信用であるか。そうである。純粋美とは比喩である。鑑賞も一種の創作である―。

信じるとはあまり理論的でないようだが、存在のあらゆる前提を疑った末に、我思う、故に我ありと言ったのはデカルトだった。これだけは動かぬ、俺はそう確信したということだと思われるのだが、学問的にどのように考えられているかは知らない。

今日、現実の複雑さを前に沈黙せざるを得ない私たちが、それでも言葉を発するためのエクスキュースとして写真を求めているとすれば、それが「美しさ」から離れていくのも無理はない。

ただ、どれほど用心深く精緻に用いられた言葉も、遂に人間を捉え切ることはないだろう。そこには常に余白がある。私たちは、その余白に塗られた彼の色を見る。こんな風に世界を眺められたらと、心から思った。

渋谷Bunkamuraザ・ミュージアム
6月25日(日)まで

by mynas | 2017-06-03 21:23 | Comments(2)
Commented by SID at 2017-06-06 13:09 x
ソール・ライター展いいですね!
行ってみたいです。
私事では御座いますけど、DP2メリル
入手しました。
あまりの描写力に驚きました。
しかし、最終的には撮る人のセンス、感性
想いにより写真は仕上がるのだとも考えさせられました。
Commented by mynas at 2017-06-06 22:42
SIDさん、こんばんは。
関西にも来年巡回するようですので、ぜひ。

DP2メリル、入手されましたか!
清家さんも選ぶならDP2メリルと書いておられましたね。
クワトロよりメリルセンサーという方も多いと聞きますし、可能性に溢れる1台ではないでしょうか。

お話、全く同感です。シャッターボタンを押すのは機材ではなく僕たちですから!