many north, and south.

セイケトミオさんのこと 5(おわり)

写真には自分が写る。
写真を撮るひとであれば、誰しも直面するこの問いに、セイケさんはどう向き合ってこられたのか。
私がいちばん聞きたかったのはそれでした。

「被写体を探している時、私は以前に自分が見たことのある風景を求めている気がします。
誰でも、幼い時の体験やその頃に見た風景が、記憶として、また無意識のうちにも残っているものだと思いますが、私はそういうものから逃れられないと感じています。
海外で活躍されているセイケさんの中に、そういう原体験、原風景と呼べるようなものがどれだけ残り、作品に影響を与えているのでしょうか?」

「僕は子供の頃、洋物が苦手だった。映画でも音楽でも。
でも写真を撮るようになり、日本を出るときに決めたことがある。
日本人として、日本のものを海外に持ち出すことはしたくない。海外の写真家と同じものを、同じレベルで撮れるようになりたいと。
そのことが僕の中にずっとある。
だからあなたのように、昔の記憶とかそういうものはあまり引きずっていないかもしれない」

セイケさんは、私の目を見ながら答えてくださいました。

「原風景から逃れられない」というような受け身の姿勢ではいけない。
ノスタルジーを主題としたいのであれば、もっと意識的に撮らなければならないし、でなければ逆に、はっきりとその重力圏を脱しなければならない。

セイケさんが後者であることは明らかだと思います。
恥ずかしながらお話を伺うまで、私は自分がセイケさんの作品に惹かれる理由さえよく分かっていなかったのです。

京都から帰ってほどなく、写真を始めた時から使っていたCanonの一眼レフとレンズを処分し、中古のLeica M9を手に入れました。
レンズはセイケさんおすすめのコシナのゾナー 50mmにしました。

安い買い物ではなかったですが、M3を使ってみて、一眼レフよりもRFのほうがトータルで使い易いと思っていたので、セイケさんに背中を押していただいた感じです。

Canon機の最後の出番は、ギャラリートークの翌日、友人の新居の撮影でした。
木の香りがする真新しい家の中を行ったり来たりしながら、セイケさんのような「光」を探している自分がいました。

by mynas | 2016-01-14 20:52 | Comments(2)
Commented by photo-net at 2016-01-18 21:35
初めまして。
また拝見したいので、リンクさせて頂きます。
Commented by mynas at 2016-01-19 20:47
photo-netさん、はじめまして。
リンクの件、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。