毎週火、水曜日は、朝食当番だ。僕より早起きの妻がご飯を炊いておいてくれる。僕はみそ汁を作り、コーヒーを淹れる。子どもたちが赤ん坊だった頃は、とてもそんな余裕はなく、シリアルやインスタントのみそ汁を食べていた。
学生時代もふくめ調理の経験がほとんどなかったので、始めはひとつの具材を切るだけで精一杯とか、その大根が生煮えで固いとか、基本的なところで難儀していた。みそ汁に限らずありあわせの材料で何でも作ってしまう妻が魔法使いに思えた。
娘が食わず嫌いで、野菜は特にその傾向がつよかった。具沢山みそ汁で慣れてくれたらという考えもあった。ねらいは当たって、食べられなかったナスも油揚げと一緒なら、と最近はリクエストしてくれる。
煮干しでだしをとり、切った具材を入れ、煮えたら一度火をとめて味噌をとく。そのあともう一度火を入れる。毎回同じ繰り返し。でも少しずつ変わっていく。具材もいまは3種類から4種類は入れるようになった。冬の間は刻んだ生姜がお気に入りだ。
野球には全く興味がない僕でも、大谷翔平という存在は気になってしまう。僕くらいの世代だと同じ野球選手のイチローも、その影響力は大きい。二人とも、大リーグに行って結果を出していることに感嘆する思いはもちろんある。それに加えて、「野球を好き」であり続けるために努力しているように見えるところに興味が湧く。
好きという感情はかなり効率の良いエネルギー源だと思うけど、それだけで続けられるほどプロスポーツは甘くはないだろう。イチローをして、「プロになって野球が心から楽しいとは言えなくなった、もう一度同じ人生を送りたいかというと即答できない」と言っているほどだ。
プロアスリートの話題としてよく取り上げられるルーティーンも、感情的なことに依存しない方法論なのだろう。それはルーティーンの先にある目標も同じで、そこに曖昧さは一切ない。イチローは小学生の時の作文で、「契約金は1億円が目標です」と書いているし、大谷選手も有名な「マンダラチャート」に「8球団ドラフト1位指名」と書いている。どちらも数字が入っている。数字が全てではないにしても、目標がプロ=ビジネスなら数字は必要だ。
マンダラチャートは、1つの目標を8つの要素で囲み、要素に対する8つのアプローチを具体的に示すという合計81マスの「表」だ。大谷選手の場合、例えば「体づくり」という要素があり、その周りに「サプリメントを飲む」とか「朝3杯夕7杯」などと書いてある。ちなみにご飯の量だそうで、これは若者限定(笑)。でも、他は凡人でも真似できないというほどのものではない。チャート化すると、目標達成を支えるのはフィジカルなルーティーンしかない、ということがよくわかる。
年始に大谷選手を真似てというのも照れくささがあるけど、やらないよりはいいと思って僕もチャートを作った。要素は4つにして32マス。目標には具体的な数字を入れる。出来上がると、生活の隅々に意識が行き渡ったような、ちょっとした緊張感が生まれた。
このチャートを作成した当時の大谷選手は高校1年生。僕はいま41。四半世紀遅れでようやくスタートラインに立った気分だ。
写真家・渡部さとるさんによる、泉大悟さんへのインタビュー動画が公開されています。お題はモノクロ写真ですが、ほぼ泉さんの話。泉さんは渡部さんの元アシスタントで、銀塩プリントによる表現を追求されています。動画にも出てきますが、ワークショップの卒業制作を見たセイケトミオさんが「おいくらですか」と尋ねた、というエピソードを持つひとです。
3年ほど前に一度、個展でお話を伺ったことがあります。気さくな方で、質問にも丁寧に答えてくださいました。銀塩の厳しい先行きや、コンセプトありきの昨今の写真については、「でも、好きだったらやるしかないですよね」とニコリ。素朴に思えるそのスタンスが、実は意思的な判断の積み重ねの上に成り立っていることが今回のインタビューからも分かります。
インタビュアーの渡部さんは写真のワークショップを20年近く続けていて、僕もチャンネル名になっている「2B」の卒業生のひとりです。4ヶ月間、毎週長野から東京へ通う時間的、金銭的なハードルは低くありません。そのハードルを越えるきっかけをくれたのが泉さんのブログでした。ワークショップの内容を元受講生兼アシスタントという立場から解説した記事が、僕の背中を押してくれました。
動画ではウェブサイトにアップされていない泉さんのプリントも紹介されています。渡部さんいわく、「プリントを買うことはその作家を買うこと、これに勝る評価はない」。僕が銀塩のオリジナルプリントを所有しているのはセイケさんと渡部さん。泉さんにもそこに加わってほしいと願いつつ、まだ実現できないでいます。
インタビュー動画
2B Channel
泉さんのブログ
恍然大悟
なんとなく更新が止まって、というのではなく、直前まで投稿を続けてこられ、閉鎖と削除を明言された、そのことにはっとしました。
ブログを始められて10年、それは銀塩プリントの名人であるセイケさんが、デジタル写真に取り組んでこられた10年と重なります。
やるからには全部試す。自分のやり方を見つける。この1、2ヶ月間の投稿にあったiPhone XSの写真からもそんなことを感じていました。デジタル写真について見極めるという明確な意図のもとで続けてこられたブログだったと思います。
今回の閉鎖からは、その役割は終わったという、セイケさんの静かな決意を感じずにはいられません。
この10年は、写真に対する世間の価値観が大きく変わった10年でもありました。最後のタンバールの写真は、ボディがM-Dであることも含めて、いまもてはやされる写真とは対極にある1枚といえないでしょうか。
すばらしい作例とコメントの数々、大変勉強になりました。
ありがとうございました。